正午の茶事 お詰の役割
昼に行われる正午の茶事が基本です。そのほか、早朝の朝茶事、夕方からの夜噺の茶事などがあります。正午の茶事の場合、午前11時半~12時に始まることが多く、所要時間は約4時間程度。流れは下記の通り。
- 初座(前席、ぜんせき)…初炭手前、懐石、主菓子 ※風炉では懐石の後に初炭手前となる
- 中立ち
- 後座=後席(ごせき)…濃茶、後炭手前、薄茶 ※後炭手前を省略し、続き薄茶となる場合も
詰の役割は黄色の下線、客全員の行動は青色の下線、茶事のポイントは赤色の下線で記載しています。
当日まで
前礼…茶事当日の2~3日前までに届くように、亭主からの案内状に返信を出す
服装…女性は紋付の訪問着や付下げ、色無地などが望ましい
持物…扇子・懐紙・帛紗・古帛紗・ハンカチ(蹲踞で手をふく)・紙小茶巾・残菜入れ(そでおとしともいう。音のしない小ぶりなジップロックなどが便利)
あくまで亭主が招く茶事のため、会費は提示されないことが多いようです。お礼として包む金額は、気楽なものであれば5000円~1万円程度。少人数の正式なものであれば、1万円~3万円程度。新札を用意して入れ、お祝い用のし袋に「御祝∞自分の名前」を書いてお渡しします。
渡すタイミングは、亭主が既知の場合は、すべて終わったあと。水屋によって渡す場合もありますが、このあたりはケースバイケース。
お詰とは
末客=お詰は円滑に茶会が進むよう、縁の下の力持ち的役割をするお仕事があります。正客とともに拝見のお道具をお返ししたり、茶事であれば、茶道口に空いた鉢や飯器を返したりします。お詰めは、いつ何をどうやってどこに返すのかを把握していなければいけません。
前席 席入り前
門前に打ち水がされ、玄関の入り口が手掛かり分あいていれば、案内を請わずに寄付に入る。
寄付で衣服を整える。足袋を履き替え、懐紙などの持ち物を確認する。待合で掛物を拝見。当日の道具組か書かれた茶会記や箱書などがあれば合わせて拝見する。待合では客の座る場所の決まりはない。客が全員揃うと、詰が板木を人数分叩き、亭主に知らせる。
正客の「ご一緒に」の挨拶ののち、客一同で白湯または香煎をいただく。詰が飲み終わった汲みだし茶碗を片付け、たばこ盆も元の位置に戻す。
正客から順に次礼をして露地に進み、腰掛待合へ進む。亭主が中門(ちゅうもん)まで出向いて迎え、主客無言で一礼=迎付。
席入り(初入り)
正客から次礼をし、順に蹲踞(つくばい)で手と口を清めて茶席に入る。
蹲踞の使い方 柄杓を上から取って水を一杯汲み、左手、右手と洗い、もう一度水を汲み左手に水を受け口をすすぐ(真似だけでもよい)。次に合を手前に向けて、残りの水で柄杓の柄を洗う。洗い終わったら、最初に置いてあった通り、合を左に向けて、斜めに柄を引いておく。
席入りの際は、襖の前に座り、膝前に扇子を置く。席に入ったら、ぞうりの表を外にして重ね、戸じりのほうに順に立てかけておく。床前に進み、掛物を拝見。点前畳に進み、釜、炉を拝見。詰は席入りすると、軽く音をさせて戸を閉める。
亭主は客が座についたところで席中に入り、客1人1人に挨拶。正客が待合、露地、本席の掛物などについて尋ねる。
初炭手前
炭手前とは、客の前で風炉や炉に炭をついて火を熾す一連の所作。炉の季節は、席中を暖かくするため、懐石の前に初炭手前を行う。
初掃きが始まると正客から順に次礼をして炉のまわりに進み、手をついて炉中を拝見する。炉中の下火のふぜいを拝見する(湿し灰、炉壇、炉縁なども拝見)。
正客の所望に応じて亭主が香合を拝見に出す。拝見がすむと、正客と詰が出合いで香合を返す。
懐石
懐石 基本は「一汁三菜」とされ、味噌汁と向付、煮物、焼物の三種の料理のことを指す。そのほか、預け鉢(あずけばち)=炊き合わせなどが出ることもある。
膳の飯と汁をいただく
まずは膳(手前左に少し大きい飯椀、手前右に汁椀、向こうに向付)が出される。一膝進んで受け取り、そのままの形で一礼。亭主も一膝下がって受け礼。膳を畳の縁に半分かかる位置に置く(詰以外は次客に次礼する)。正客の「いただきましょう」で一同会釈し、連客一同も「お相伴を」と挨拶する。
右手で汁椀の蓋を、左手で飯椀の蓋をとって、右(汁椀の蓋)を上に左(飯椀の蓋を裏返す)を下にして重ね合わせ、膳の右側に置く。
箸を取って汁椀を取り上げ一口いただく。飯椀をとって一口いただき、次に汁椀をとって汁の実もいただく。全部いただいたら、箸先を膳の左縁手前側にかけておき(折敷を汚さないため)、初めのように、飯椀、汁椀の蓋を戻す。
酒一献と向付をいただく
亭主が燗鍋(かんなべ)と杯台を持ち出し、酒一献をすすめる。詰は空の杯台を膳の左側に預かっておく。酒を一口いただいて、向付を左に寄せ、その右側に杯を置く。この時初めて向付に箸をつける。
飯器がでる
亭主が飯器(はんき、飯次ともいう)を出し、客の汁椀を預かり、二回目の汁を給仕する。飯器の蓋だけ先に、蓋裏を上にして詰まで手送りされる。飯器を左膝上に持ち、飯椀は折敷に置いたまま飯をしゃもじですくって入れる。詰は飯器のなかに飯がのこらないよう全てとり、しゃもじを中に入れ、蓋をして膳の左向こうに飯器を置く。
煮物椀、酒二献、焼物をいただく
煮物椀(蒔絵などが施された大振りの椀が多い)が出る。煮物椀の蓋をとり、膳の右角向こうに置く。
亭主が燗鍋(かんなべ)を持ち出して、酒二献目をすすめる。客は煮物椀の蓋を一度閉め、煮物椀を膳の右角向こうに置いて杯を受ける。
焼物が出る。鉢か皿に人数分盛り合わせて出る。焼き物は空になった向付の皿に取る。詰は空の焼き物の器を膳の左向こうに寄せておく。
二度目の飯器がでる
二度目の飯器がでる。強肴、預け鉢(炊きものや珍味など)がでることも(八寸の後に出る場合も)。
亭主のお相伴の挨拶のあと、客は自由に食事をいただき、食器類も拝見する。詰は拝見のために鉢を正客に持っていく、ついでに連客にお酌をする場合もある。
飯を一口だけ残し、飯椀、汁椀、煮物椀の蓋をしておく。詰は杯台を正客の前に持っていき、空いた器(飯器や焼き物鉢)を給仕口まで運んでおく。※亭主が茶道口に座ったまま取りやすい位置に置く
八寸をいただく
箸洗(はしあらい)=小吸物(こずいもの)がでる。亭主が八寸(左手前に海のもの、右向こうに山のもの)と燗鍋(かんなべ)を持ち出し、主客の献酬(けんしゅう、酒の酌み交わし)。
湯斗と香の物をいただく
湯斗(ゆとう、湯次ともいう)と香の物鉢がでる。香の物は向付の器にとる。湯斗の蓋は詰まで手送りされる。
飯椀、汁椀の蓋を同時に開け、最初と同様に重ねて膳の右側に置く。湯斗の取手を左手で持ち、湯の子すくいで湯の子を飯椀にいれ、汁椀に湯を入れ蓋をしておく。飯椀に残った飯と漬物をいただき、汁椀の湯で箸を洗い、湯を飲む。
懐紙で箸をふき、膳の右側にかけて置く。杯、飯椀、汁椀、向付の器を懐紙で軽く押さえるようにふき、向付を膳の中央に直す。飯椀の蓋を仰向けて椀に重ね、その上に杯を置く(杯が陶器の時は、懐紙を間に挟んで向付の器の上に置く)。詰は湯斗、漬物の器を勝手口に出しておく。
連客揃って箸を膳に落とし、音を立てる(=食事が済んだ合図)。
全員が食べ終わると、亭主は茶道口を開け主客一礼。返された器を引き、折敷を下げて茶道口を閉める
※膳の渡し方は、最初とは逆になる。客は膳を手渡してから一膝下がって一礼
詰だけは自分の膳を茶道口に出しておく。
主菓子をいただく
主菓子が出る。亭主が茶道口で席中を改めたい旨を伝え、正客がこれに応じ、一同で菓子をいただく。詰は菓子器を茶道口に返す。
正客から順に、床と炉を拝見して席を立つ。手あぶりや座布団がある場合は、詰が茶道口に返してから席を立つ。
中立ち
正客から順に、腰掛待合に進む。亭主は床の飾り付けを掛物から花に変え、濃茶の準備をして銅鑼を打つ(=後席の用意が整った合図)。客は露地で銅鑼の音を聞く。※客が3~4人の少人数の時は銅鑼は「大小中中大」と鳴る
後席 席入り(後入り)
客は腰掛待合を立ち、正客から順に、再び蹲踞で手と口を清めて席入り。詰は円座を重ねて片づけて置く。床の花、点前座の道具を拝見して座につく。
濃茶
濃茶をただいた後、正客が茶銘、詰、菓子の銘などを尋ねる。詰の飲み切りで、正客が茶碗の拝見を請う(正客から声がかからない場合は、「茶碗をお返ししましょうか」等、適宜声をかける)。茶碗を拝見し、古帛紗があれば同様に拝見する。拝見が終わると正客と詰が出合いで返す。
正客が茶入、茶杓、仕覆の拝見を請う。
道具の拝見時に気をつけること ・茶入…底の部分の土肌には触らない ・棗…高くかかげて底を覗き込まない ・仕覆…布地を触らない
拝見物が返されると、正客が道具の問答を行う。問答の後、亭主が道具をもって茶道口に下がり、主客総礼。
後炭手前
亭主が襖を開け、主客総礼。炭が継がれたら、客は順次、炉の中、釜、炭斗を拝見する。客の拝見が終わると、亭主は炭斗を持ち茶道口に下がり、主客総礼。
薄茶
亭主が煙草盆、干菓子などを正客の前に運び出す(座布団がでることも)。亭主が水差を茶道口に置いて、主客総礼。
亭主が菓子をすすめたら、正客は次礼をして菓子をいただき、薄茶を取りに出る。茶碗を拝見して亭主に返し、以下次客から詰まで同様にする。
正客が棗と茶杓の拝見を請い、拝見ののち問答。道具の拝見が終わり、亭主が道具をもって茶道口にさがり主客総礼。そのまま亭主は席に入り、客1人1人と挨拶を交わす(客は扇子を膝前に置く)。茶道口に下がって亭主一礼。
退席
連客同士、相伴の挨拶をする。正客から順に床と釜を拝見し退席する。詰は干菓子器、座布団、煙草盆などを茶道口に返してから、拝見して戸を軽く音をさせて閉める。亭主はその音を聞いて、改めて躙口(にじりぐち)を開け、主客黙礼。
茶事はここで終了です。翌日には、後礼をするのが良いそうです。
後礼…茶事翌日に、すぐ亭主にお礼のお手紙を出す。道具やその他のことには触れず、招かれたことへの感謝やねぎらいの言葉などを織り込む。